小娘の覚え書き

プレイ日記やお気に入りmod紹介

第一章:アンジーさんとの生活

第一話:ファルクリース

弓の稽古は順調だった。

練習用の矢をもらって、毎日一生懸命練習し、アンジーさんは辛抱強く付き合ってくれた。

いつものように、朝ごはんの支度をしていると(これは一緒に住む上でアンジーさんから与えられた仕事)大きなあくびをしながらアンジーさんが起きてきた。

「おはよう、いつもありがとね!」

「おはようございます!もうすぐ朝ごはん出来ますよ!」

なんのことはない会話をし、アンジーさんは外の空気を吸いに出ていった。

 

ここはとても寒いが、標高が高いので空気が澄んでいて、胸いっぱい吸い込むとひんやりとして気持ちがスッキリする。

でも、周りに誰もいないので私が来るまでアンジーさんは寂しくなかったんだろうかとよく思う。強い人だな、と思った。

 

朝ごはんの支度が終わった頃、ふらりと戻ってきて「美味しそうね」とアンジーさんは言った。今日は、ゆらゆらと湯気を立てているえんどう豆のスープと雑穀のパン、リンゴのサラダだ。

静かに、時々談笑しながら二人で朝食をさっと済ませた時アンジーさんが言った。

「ねえ、食料もだいぶ減ってきたし今日は練習はなしでファルクリースまで降りていかない?」

ファルクリースは森に囲まれた豊かで、比較的大きい街だと聞いている。

私はまだ一度も行ったことがなかった。そこに行けると聞いて心がおどる。

なにより、色々な人とお話できるかもしれない、珍しい品物を見れるかもしれないと、年相応の好奇心がくすぐられた。

「わあ、ついていっても良いんですか!?」

「もちろんよ!今まで訓練続きで、たまには息抜きも必要よ!」

決まりだ。ワクワクする。

あれこれ家事を終えて、私達は昼頃に山を降りて行った。

 

初めて見るファルクリースはとても美しかった。

緑が生い茂り、人はたくさんいる。あちこちから誰かの会話が聞こえてくる。

鉱山しかしらない私にとって、夢のように賑やかで明るい場所に思えた。

宿で食料をあれこれ買い、いっぱいになった袋を持っているとなんだか幸せな気分だった。

アンジーさんが寄りたい店があるのと言った。

少し歩くと、「グレイブ調合薬店」と書かれた古びた看板の店が見えてきた。

中に入ると店の主人らしき、若い女性がいらっしゃいと声をかけてきた。

若くはないが、快活そうな褐色の肌が眩しかった。

アンジーさんが不意に「見て!」と棚を指さした。

なんだか、綺麗な装飾の小瓶がたくさん並んでいる。

「あの瓶には何が入っているんですか…?」と聞くとアンジーさんは微笑んで「香水よ、身体に付けてるととてもいい香りなの」

とっても高そうだ、と思った。香水なんて、うちの母も持っていなかった。

貴族か、何か偉い人がきっと使うものだろう。

私はうっとりとキラキラ光る瓶を眺めていた。

「ちょっと試してみる?」

「良いんですか?」

「ザリア、ここの香水、ちょっと香りを確かめてもいいかしら?」

「ええ、どうぞどうぞご自由に!」

 

私達二人はキャッキャしながら、この香りはあの花に似ている、とか、ハーブのようだ、とか言いながら楽しく香りを楽しんだ。

そして、ある香水を試した時、ピンときた。

ラベルには、【ジュニパーとスノーベリーの香り】と書いてある。

「やっぱり、これが一番好きな香りですね!本当にいい香り…」

アンジーさんはニコっと笑う。

「ザリア、この香水いくらかしら?」

驚いている私を尻目に、二人は値段交渉を始めた。

「そうね…、それは500ゴールドでどうかしら」

「いいわ。買った!」

 

私は怖気づき「そんな高いもの…申し訳ないです…!」と慌てて小声で言ったが、もう遅かった。

はいこれ、あなたのよ。と渡された小さな小瓶を見て、心臓がドキドキした。

涙が出そうになったがぐっとこらえ、小さな声でありがとうございます…と言うのが精一杯だった。

こんな高価なものをもらったのは、はじめてだ。

 

アンジーさんが色々な人と会話しているのを見ながら、私はぼんやりとしていた。

嬉しさと楽しさで胸がいっぱいだ。

 

アンジーさんの家に帰ったときには、なんだかドッと疲れた。

知らずのうちにかなり緊張していたせいもあるし、何よりもこの美しい香水をもらった時からドキドキが止まらなかった。

何度もお礼を言っては、アンジーさんに「良いのよ。年頃の子はそういうものを持っておくべきなの」と窘められ、数時間後ようやく落ち着いた。

蓋を開けて、何度も香りを嗅いでみる。

最初はスノーベリーの甘酸っぱい香りが、そして時間がたつとジュニパーのスパイシーな香りに変わっていった。

今日はなんて素晴らしい日なんだろう。と思った。

 

弓の腕を磨いて狩人になって、たくさん獲物を捕れるようになる事ばかり考えていたけど…「こういう世界もあるんだ」という新しい発見をした一日だった。